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報告者:有本 由伸
■はじめに
 マスコミを通じてさまざまな感染症の問題が伝えられている。最近はアジア諸国から、SARSや鳥インフルエンザなどの情報がしばしば報告されている。これらは遠い国の話で、島国の日本は問題ないというわけではない。現代は大量高速輸送時代である。多くの日本人や外国人が世界中を行き来しており、特に日本はアジア諸国との直行便も多く、知らぬ間に日本国内に感染症が拡がっているともかぎらない。そしてこれは医療施設に病院環境整備(病院清掃)サービスを提供している弊社にとっても、大変重要な問題である。
今回、ベトナム視察の際、バックマイ病院を訪れる機会を得ることができた。バックマイ病院はSARS制圧を果たしたことで日本でも認知されている。また日本からバックマイ病院に院内感染対策の技術協力がなされており、どのようにSARS制圧に成功したか報告されている。当然ながらSARS対策の報告のほとんどは臨床に対するものである。弊社は病院環境整備サービスを提供する企業として、環境整備の視点から病院視察を行った。

■視察目的
平時および緊急時(感染症流行時)の環境整備体制の視察。
■視察報告
【概要】
Bach Mai Hospital(バックマイ病院)
1911年にベトナムの首都ハノイ市に設立。
北部地域のトップリファレル病院(第三次医療機関)のひとつで、ベトナム最大規模の内科系総合病院。
診療科:26科、 ベッド数:1400床、 外来患者数:約2500人/日。
診療対象:北部31省、 
対象人口:約2500万人(ベトナム総人口は約7800万人、61省)。
バックマイ病院外観
【院内の状況】
 外来と洗浄室を視察させていただくことができた。
  
 外来は、天井が高く、廊下も広い印象を受けた。ただ、天井には扇風機があり、パイプが通っていることから、埃が堆積しやすく日常の清掃が困難であると考える。床面はPタイルであったが、樹脂ワックスは日本のように厚く塗布されていなかった(既にワックスが無くなっていたのかもしれないが)(図1、2)。
 気候のせいか、空調が効かないのか、廊下の窓は開放されていた。
図1 図2
 トイレは日本の古い建物のトイレのような印象である。手指の乾燥機やペーパータオルは設置されておらず、ゴミ箱は個室にのみ配置されていた。各洗面器のとなりには消毒液が配置されていた(図3、4)。
 トイレの仕様は古いが目立った汚染はなく、清掃は行き届いているように見受けられた。
図3 図4
 廃棄物(医療廃棄物も)がテラスにそのまま置かれており、清掃用具も廊下の隅などに置かれていた(図5、6、7)。
図5 図6
図7
 洗浄室は広く、ちょうど研修が行われていた(図8)。日本では清潔区域の扉は自動扉がほとんどであるが、こちらでは清潔区域の扉が自動扉ではない場所がほとんどであった(図9)。
図8 図9
 拝見した外来、洗浄室とも目立った汚染はなく美観は維持されていたと考える。ただ、廃棄物の保管場所(一時保管場所としても)は検討したほうが良いと考える。 
【清掃方法】
 日本でも採用している病院や清掃業者も増加しているが、オフロケーション方式の清掃方法をとっていた。
床面を清拭するモップはケンタッキーモップ、フラットモップなどを併用していた。日本では、フラットモップのモップヘッドはマイクロファイバーを使用していることが多いが、残念ながらこちらのモップヘッドの材質は何を使用しているか確認できなかった。
備品類は日本で使用しているような色別されたマイクロファイバークロスではなく、タオル地のクロスで清拭を行っていた。
作業風景を見ることはできなかったが、ポリッシャーや大型のバキュームなどを使用することで効率を図っているようである。
清掃スタッフのユニフォームの形も日本とそれほど変わらないが、一般区域でもキャップを着用して作業していた(図10、11、12、13)。
 
図10 図11
図12 図13
 基本的に清掃の手技・手法は日本とそれほど変わりのないものである。ただ、廊下の隅に置かれた清掃用具を見ると、色別に分けられた用具を厳密に使い分けているようには感じられなかった。
【病院環境整備(病院清掃)体制】
 病院の環境整備体制について、病院長をはじめとする院内感染対策チームから説明していただいた。
日 本 バックマイ病院
清掃業者 主に民間会社に業務委託 民営会社に業務委託
清掃スタッフへの院内感染対策教育 民間会社が行う 病院が行う
ゾーニング 清潔度に応じて6〜7種類に色別 緊急時のみ3種類に色別
清掃方法 主にオフロケーション方式 オフロケーション方式
 日本の主な病院環境整備体制との違いは上表の通りである。
 まず清掃業者について、これは日本同様、民間の企業に業務委託している。
 しかし、清掃スタッフへの院内感染対策の教育研修は病院が直接行っている。そしてこの研修を修了した者のみ、病院の環境整備(清掃)作業を行うことができるのである。これは、標準予防策をはじめとする正しい院内感染対策を身につけさせると同時に、環境整備がいかに重要であるかを示している。日本でも病院のICPの方が清掃スタッフに院内感染対策の研修を行うことがあるが、研修を修了しなければ清掃作業に従事できないことはないし、頻繁に研修が行われることもないのが実情であろう。
 ちなみに院内感染対策の研修ではないが、ドイツでは清掃業務についてもマイスター制度(起業や新技術への対応の遅れの要因にもなっているが)がある。清掃は誰にでもできるものではなく、清掃にも正しい知識と技能が必要であることがわかる。
 次にゾーニングについてであるが、日本では清潔度に応じて病院を6〜7種類に色別し、オフロケーション方式の清掃を行うことで交差汚染を予防している。
対してバックマイ病院では、平時ではゾーニングによる清掃は行わない。緊急時(SARS発生時のような)にのみゾーニングによる清掃を行う。しかもゾーニングは日本のように6〜7種類ではなく、清潔区域(青)、一般区域(緑)、汚染区域(赤)の3種類である。
 ゾーニングの分類数によるハイジーンコントロールの差異はわからないが、バックマイ病院では問題ないのなら、一度ゾーニングの分類について再考したい。(病院長曰く、バックマイ病院がベトナムで最も高いハイジーンレベルを保っているとのこと)
 ただ、普段からゾーニングによる清掃を行っていないために、緊急時にゾーニングによる清掃にすぐに清掃スタッフが対応できるのか懸念する。
 いずれにしても、清掃スタッフに対する院内感染対策の教育は継続的に行わなければならないと考える。
 
【バックマイ病院でのSARS対策】
  SARS発生時、バックマイ病院では、患者は全て病院敷地内の熱帯医学研究所に収容され、重症度に応じてそれぞれの病室に入院した。そして、家族の入室も制限された。
  診療はN95マスク、ガウン、キャップ、手袋(これらは一人で1日1セットの使用)を着用し行われた。24時間交代勤務で、勤務時間内は建物からの出入りを制限された。
  このように、熱帯医学研究所を一つの隔離病室としたのである。この間は、清掃スタッフは研究所に出入りしていない。
【まとめ】
  SARSや未確認の感染症が発生した場合、弊社のような医療関連サービス業者は、前述のように隔離病室には一切出入りしない。何もすることはないし、できないのである。しかし、院内のさまざまな場所で作業する清掃スタッフは、自分たちは院内感染の経路となっていることを自覚し、感染の拡大を防ぐ意識と正しい院内感染対策の知識を持たなければならない。
 また企業としては、自社の清掃スタッフを守るためにも院内感染対策の教育を継続して行うとともに、病院と緊急時の院内感染対策を構築しておく必要がある。院内感染対策教育とはいうものの、実際に継続して行っている企業は少ない。病院と緊急時の対策を構築するといってもすぐには難しいかもしれない。しかし例えばヒト‐ヒト感染の鳥インフルエンザが発生したら、病院に出勤などできないのである。
  今回の視察で、たかが清掃ではあるが、医療施設での環境整備(清掃)の難しさや重要性をあらためて考えさせられた。

最後に、今回の視察に際しご協力いただいた茨木商工会議所の方々、バックマイ病院長をはじめとする院内感染対策チームの方々に心よりお礼申し上げます。
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